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広島高等裁判所岡山支部 昭和31年(く)13号 決定

少年 K子(昭一三・一・一八生)

抗告人 法定代理人親権者母

主文

本件抗告を棄却する

理由

抗告申立人は抗告の理由として少年に対する窃盗、虞犯保護事件について昭和三十一年十一月二十七日岡山家庭裁判所笠岡支部で少年を中等少年院に送致する旨の決定を言渡されたが、原審は昭和三十一年十一月二十七日の審判期日に保護者である申立人に対し期日呼出の手続を正当にしなかつた為に出席して意見を述べる機会を失い、尚少年はその後には何等の非行もなく、少年の更生については及ばずながら援助することを引受ける人もあり抗告申立人も力強く一生懸命尽してみる心算でありますので、原審の決定は著しく不当であるからその取り消しを求めるため本件抗告に及ぶというのである。

そこで調査するに、所論は原決定に処分の著しい不当があるというに帰するが、先ず少年保護事件記録、少年調査記録によると少年は既に昭和二十八年十一月十九日岡山家庭裁判所で窃盗、横領保護事件により初等少年院に送致され昭和三十年十二月少年院を仮退院したに拘らず、昭和三十一年一月十日頃の窃盗を初めとし同年二月十四日迄に九回に亘り現金衣類等(価格合計金一万九千五百円相当)の本件窃盗保護事件により原審裁判所に送致されたものであること、昭和三十一年十一月二十七日午前十時の原審裁判所における審判期日には保護者に対する呼出がなされてはいるが記録中の郵便送達報告書によれば審判期日と同日である昭和三十一年十一月二十七日午後三時五十分に保護者T子に送達されたことが確認される。

して見ると、少年保護事件の審判期日には少年審判規則第二十五条第二項により少年の保護者を呼び出さなければならないものであることはいうまでもないから、原審が前記審判期日に右少年の保護者であるT子を呼び出してはあるが昭和三十一年十一月二十七日午前十時の審判期日の当日午後三時五十分受送達者T子に送達されたため右審判期日に出席し意見を述べる機会を与えなかつたことは結局右少年の保護者を呼び出さないで、当日審判を行いこれにもとずいて前記送致決定をしたこととなり、その原因はともかくとして、畢竟違法であることは免れない。ただしかし少年法及び少年審判規則の規定の文言、趣旨からしても、亦記録によつてみても、仮令少年を家庭に還しても家庭の環境、保護者に保護能力がないこと、少年の経歴からみて到底更生する見込のないことが認められる本件のような場合には、右のような違法はいまだ決定に対するいわゆる絶対的抗告理由となるものではないと解するのが相当であるところ、原決定が説示するところ及び記録によりて右少年の素質、行状、教育の程度状況、経歴、心身の状況、不良化の経過程度、事件の関係、保護者その他家族関係、職業、能力、性行、家庭の情況その他諸般の事情を総合して考えると、前叙の事情その他申立書に記載の事実を勘案しても、原審が少年を少年院に送致する旨決定したのは相当であると認められるから、前記違法はいまだ右決定に影響を及ぼすものではないといわなければならない。そしてほかに原決定にはこれを取り消さなければならない程重大な事実の誤認も処分の著しい不当も認められないから、本件抗告は結局理由がない。

それ故少年法第三十三条第一項、少年審判規則第五十条によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 有地平三 判事 宮本誉志男 判事 浅野猛人)

別紙(原審の保護処分決定)

主文及び理由

主文

少年を中等少年院に送致する。

岡山保護観察所長は環境調査に関し特に次の措置を行うこと。

(一) 両親の同居の促進。

(二) 家庭経済の確立。

理由

(審判に付した事由)

少年は

第一 別表非行事実一覽表の通りの犯罪を敢行したもの(省略)

第二 昭和三一年三月二〇日試験観察決定により○○郡××町大字△△△更生保護会に補導を委託されたものであるがその翌日更生保護会を逃走し浮浪していたもので、その性格、環境に照して将来罪を犯し又は刑罰法令に触れる行為をする虞のあるもの

第三 試験観察決定により補導を委託されていた○○郡××町大字△△△更生保護会を再三逃走し、又家庭にも定住せず各地を浮浪した末、倉敷市において接客婦として自己の徳性を害する行為を継続しているもので、その性格又は環境に照して将来罪を犯し、又は刑罰法令に触れる行為をする虞のあるものである。

少年の第一の各所為は刑法第二三五条に、第二第三の行為は少年法第三条第一項第三号に該当する。

(主文記載の保護処分に付する理由)

主な問題点

一、少年の成育歴に認められる家庭内における人間関係の好ましからざる悪循環は個性の偏歪を形成させた。情緒の未熟、社会性の未熟も認められるが愛情と安定感の欲求態度には、条件反射的に反抗と愛着による矛盾し固定した対人態度を示す少年である。かかる個性的異常と生活環境の中に相関的に形成された反社会的犯罪危険性は、少年院収容保護措置によつて矯正教化されたにも拘らず仮退院後間もなく非行を反復したもので習性化しているものと認めざるを得ない。

二、昭和三〇年一二月少年院仮退院時は家庭環境不良で保護者に引取りの意欲なく更生保護所に引取られたが同保護所で生活中に非行を反復したので再収容の措置よりは少年の個性を理解しその上に立脚する専門的補導を期待しうる保護司の専従する同保護所に再委託して社会復帰を計るを適当と考察して試験観察処分に付したが再度に亘つて無断外出し一時的には実家に戻つたが持出等を反復し保護者の監督にも服さず本年六月頃より倉敷市○○町の特飲街において接客婦として従事するに到つた。終局処分を決定するための展望的措置の結果から判断し特飲街の生活にむしろ安定を感じ正当な職業に就く意欲を欠いている少年にとつて在宅的措置は必ず同一行動を反復させ福祉上適当ではなく健実な社会生活を指向させる職業補導が緊要であると痛感させる。

三、家庭環境の調整は未だ完全でなく保護矯正を効果あらしめるためには早急に環境の調整を施すべきで愛人問題に絡み家出同然で然も重症結核で入院もせず絶望的生活を送る実父と実母との関係、更に依存家庭であり経済的貧困の状況にあつては少年の家庭に在宅する事は素朴的親子の情愛から一時的には可能であるが永続は望まれない。

四、社会資源として活用すべき職場も適切なものがなく堅実な正業に就く勤労意欲の欠けている少年にとつては保護者の監督に服しつつ正常な社会生活を経る事は困難である。

以上の点から堅実な育成を期するためには収容保護により矯正教育を施す必要があり、年齢、犯罪的傾向を勘案して中等少年院に送致するが相当であり、且つ少年の保護矯正を効果あらしめるために家庭環境の調整を併せて行う必要があると認めるので、少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項、少年院法第二条第三項、少年法第二四条第二項を適用して主文の通り決定する。 (昭和三一年一一月二七日 岡山家庭裁判所笠岡支部 裁判官 近藤健蔵)

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